赤い箱


 雨が強く窓にあたっている。

 さとしはその様子をいつまでも眺め続けていた。

 どうして、雨は降るのだろう。

 「かあさん、なんで雨はふるのかなぁ?」

 「そんなこと知らないわよ。それより算数のプリントはやったの。他の子はもっとできるのよ」

 最近、母親は塾の話しかしない。

 宿題はやったの。

 今度のテストはがんばるのよ。

 たくさん勉強していい中学に入ってね。

 ニ年生になって、塾に行きだしてからずっとそうだった。

 母親が喜ぶという理由で塾の勉強もちゃんとやっている。

 けれど、さとしには本当はもっと知りたいことがたくさんある。

 塾に通うまでは、母親は色んなことを一緒に考えてくれていた。

 さとしは母親と何か考えるのが大好きだった。

 三年生になると塾の成績が悪くなりだした。

 さとしは母親に褒めてもらいたくて、必死で勉強した。

 でも、成績は下がり続けた。

 そして、母親は笑わなくなった。

 
 さとしを学校に送り出すと母親は子ども部屋の掃除をする。

 帰宅したらすぐに勉強が始められるように机を整理する。

 筆記用具に課題のプリント。

 一分一秒も無駄にはできない。

 今日も母親は準備を整えるためだけに部屋に入った。

 すると机の上に一枚の紙を見つけた。

 「また、プリントを片付けないで、こんなことだから成績も上がらないのよ」

 そう言いながら一枚の紙を手に取った。

 それは母親への手紙だった。


 『かあさんへ

 なぞなぞです。

 ねるとき頭の下じきになるものなぁんだ?

 そこに宝物があります。

                   さとしより』


 「また、くだらないことして。こんなヒマがあったら勉強してほしいわ」

 母親はつまらなそうに枕を持ち上げた。

 そこには折り紙の小さな赤い箱と大正解と書いた紙。

 赤い箱を開けると、二つの鶴の折り紙が入っている。

 一つは不器用にゆがんだ鶴。

 もう一つはきちんと折られたしっかりした鶴。

 大正解の紙を裏返す。


 『かあさんへ

 この赤い箱はかあさんが作ってくれた箱です。

 なぞなぞはかあさんが教えてくれたやつ。

 ヘタクソな鶴は小さい頃にかあさんとぼくが折った鶴です。

 きれいなのは昨日作りました。

 ぼく、上手にできるようになってるでしょ。

 勉強もがんばるから、これからもぼくに色々教えてください。

                                さとしより』


 赤い箱はさとしが幼稚園の時に母親が作ってあげたものだった。

 母親は手紙を丁寧に折りたたむとポケットに入れる。

 机の上には筆記用具とプリントを置いた。

 そして、口ばしを繋げた連鶴の折り紙。


 『さとしへ

 こんなのもあるんだぞ。

 すごいでしょ。

 帰ってきたら教えてあげるね。

                かあさんより』


 手紙を書いて机に並べた。