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明け方五時。
携帯の音で目を覚ました。
寝ぼけながら着信を見ると
『薫』
彼女の名前だった。
第一印象は不安定な女の子。
会った時も浴びるように酒を飲んでいた。
飲んで騒いで、騒いで飲んで、それを繰り返していた。
薫に聞いたことがある。
「君はどうして、そんなに飲むの」
「酔っていることを忘れたいからよ」
星の王子さまの一節だった。
子どもの時からの疑問だった飲みすけの話。
この時初めて意味がわかる。
王子さまはわからなかった。
でもわかったらどうしただろう。
多分ボクと同じことをしたのではないだろうか。
それからボクは彼女といることを決めた。
携帯のフタ開ける。
「今、どこにいるの」
静かな声で尋ねる。
電話の向こうでは、明け方とは思えない喧騒が聞こえる。
「新宿の……ここどこだっけ」
薫が誰かに聞く。
「薫さん、ドンファンですよ」
軽薄な感じの男の声が聞こえた。
怒りよりも不安がよぎる。
今日も彼女は忘れられたのか。
苦しい夜を過ごさなかったか。
「新宿のドンファンだって」
明るい薫の声。
楽しそうな声に安堵する。
「迎えに来て」
いつものセリフを言った。
しっかりとシャワーを浴びる。
髭を剃り上げる。
髪は少しの隙もなくオールバック。
濃紺のシャツに派手なワインレッドのネクタイ。
黒のダブルのスーツに袖を通す。
迎えの準備が出来上がる。
こうでもしなければ、ホストクラブに迎えになんかいけない。
ボクの大切な儀式。
一時間後には新宿の駅にいた。
携帯に電話する。
ワンコールで薫が出た。
「場所はどこ」
「新宿コマの裏にすぐ看板がある。早く来て。もう帰りたい」
泣きそうな、もう帰りたい。
これもいつもの言葉。
行けば楽しく飲んでいることはわかっている。
それでも、歩く速さが上がっているのがわかる。
店はすぐに見つかった。
ドアを開けると甘ったるい声のライオンハート。
可愛い顔をした男の子がすぐに近づいてきた。
一瞬の怪訝な表情には慣れている。
「迎えに来たんだけど」
すぐに伝える。
男の子は納得して、ボクを店の奥に案内した。
どこのホストクラブに行っても内装は同じだ。
薄暗い間接照明と派手な光の融合。
テーマはこんなところだ。
奥ではしゃぐ薫の姿があった。
やっと気が緩む。
姿を見るまでは安心できない。
「迎えに来たよ」
ボクの容姿を見て、席についていた男の子が慌てて立ち上がる。
「立たなくていいよ。迎えに来ただけだから」
彼は仕方なし座りなおした。
「帰る」
薫の声に今度は彼がほっとしていた。
「新潟から出てきた子がいたの。だから、コメ。薫がコメって名前つけてあげた。それとね……」
帰りのタクシーで延々と今日の話をする薫がいた。
ニコニコと相槌を打ち続ける。
今日も彼女は酔っていることを忘れられたようだ。
ボクは薫の酔いをさますその日まで、迎えに行き続けることだろう。
完
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