コンビニ


積み上げられたカップラーメン。

整然と並べられたポテトチップス。

縛られた雑誌。

 暗く、雑然としたコンビニの裏に僕は座っている。

「何やったか、わかってるのかな」

 三十をやっと越えたくらいの店長に聞かれた。

「万引きです」

 しおらしげに答える。

 目には涙を浮かべてみせる。

「悪いことなのはわかってるね」

 声に同情の響きが混じった。

 こうなればしめたものだ。

 もう大丈夫だろう。

「二度とこんなことするんじゃないよ」

「はい、どうもすみませんでした」

 僕はぺこりと頭を下げた。

 この店では二度と万引きはしないだろう。

 別に物が欲しいわけではない。

 ただのゲームだ。

 うまく取れれば、僕の勝利。

 取ったものも使ったりはしない。

 友達にあげたり、捨ててしまったりしている。

 捕まっても、小学生の僕が泣いて謝れば、許してもらえることもわかっている。

 そんなドジはまだ一回しかなかった。

 そして、今度が二回目。

 次はどこのコンビニにしようか考えていた。

「じゃあ、家に電話して」

「母は今、いないと思います」

 家に連絡されるのはまずい。

 鼓動が速くなる。

「そういう訳にもいかないんだよね。反省もしてるみたいだし、一応伝えるだけだから」

 母がいないことを祈ってボタンを押す。

 呼び出し音が鳴る。

 一回、二回、三回。

「はい、佐藤です」

 最悪だ。

「お母さん、あのね……」

 それから先が続かない。

「どうしたの」

 母の明るい声がする。

「何時に帰ってくるの。今日お母さんケーキ焼いちゃった。早く帰って来ないとなくなっちゃうぞ」

「あのね・・・」

 言葉が出ない。

「代わってもらえるかな」

 そう言うと同時に受話器を取られた。

「ニコニコマートの高橋と申します」

 

 母はすぐに来た。

 表情はいつものように明るかった。

 少しほっとする。

 その瞬間だった。

 パーン。

 突然の破裂音。

 右の頬が一気に熱くなった。

 母の顔は何も変わらない。

 口は普段どおりの笑い口。

 僕の大好きな元気な母だった。

 そして、もう一度。

 パーン。

 焼けるような痛みが走る。

「本人も反省しているようですから」

 見かねた店長が止めてくれた。

「ホント、申し訳ありません」

 僕の頭を押しながら、母が深々と頭を下げた。

 

 帰り道、母は何も喋らない。

 僕も黙っていた。

「納豆」

 ぽつりと母が言った。

「納豆を食べるとね、血がサラサラになるんだって」

 僕は返事に困る。

「お父さん、最近疲れてるでしょ。倒れちゃったりしたら大変だから、

 納豆たべさせなくちゃね。今日、テレビでやってたの」

「へぇ、そうなんだ」

 なんで突然話し出したのかわからない。

「あとね、お母さんコート買おうと思ってるんだ。もう寒くなってきたじゃない。

 今年は赤のコートに挑戦しようと思って。どうかな」

 母は陽気に話し続けた。

 僕もつられて返事をする。

「赤は派手なんじゃない。茶色とかいいかもしれないよ」

「茶色なんていやよ。おばさんみたいじゃない。今年は絶対、赤。赤に決まり」

「わかったよ。お母さんの好きにしなよ」

 気が付けば陽が落ちてきて、少し肌寒くなっていた。

 母が僕の手を握る。

 温かかった。

「そうそう、ケーキすごく美味しく焼けたのよ。お母さんやっぱりケーキの天才ね。

 焼き立てのケーキ、ほっぺが落ちそうになっちゃった。食べられなくて残念でした」

 母の手に一瞬だけ力がこもった。

「冷めてたっていいもんね。美味しいケーキは冷めたのを食べるのが通なんだよ」

 元気に言い返した。

 母の顔を見る。

 口がへの字に曲がっていた。

鼻の奥がつんと痛くなる。

僕は二度とゲームはしない。