|
真っ黒いコーモリはいつも言っていた。
「世の中に闇夜に輝く星よりも美しいものなんて存在しないね」
そして、彼はわずらわしく、暑苦しい太陽を知らず、静かで上品な闇夜を飛んだ。
自由に闇夜を生きた。
青く、澄んだ青空を知るまでは・・・。
コーモリはいつものように闇とたわむれていた。
ふと、漆黒の中に一つの白いかたまりを見つけた。
それはふらふらとたよりなげに浮かんでいた。
弱々しく、はかなげに飛んでいた。
コーモリは近づいていった。
闇の帝王に恐ろしいものはない。
それがたとえ未知のものであったとしてもだ。
「見慣れない奴だが、お前は誰だ?」
彼は尋ねた。
「こんにちは。いや、こんばんはだったわね。私は夜目のきかないハトです」
白いかたまりは透き通るような純白のハトだった。
「ふん、昼間のやつらか」
「はい。どうしても夜の空を飛んでみたかったのですが、やっぱり無理ですね」
「当たり前だろ。闇は選ばれた者だけのものだ」
コーモリは誇らしげに言う。
「そうですね。私はやっぱり、明るい空の下しか飛べないみたいです。黒い空も素敵だと思ったのに・・・」
ハトは残念そうにため息をついた。
それを聞いてコーモリは怪訝そうに尋ねた。
「黒い空とはなんだ?空は黒いに決まっているだろ」
今度はハトが驚く番だった。
「何を言っているの。空は青に決まっているじゃないですか」
「青い空なんてあるわけないだろ。ふざけるのもいい加減にしろ」
ハトは黙ってコーモリを見つめ、そして穏やかな声で言った。
「明日の朝、陽が高く昇ったら、あなたの住んでいるほら穴から、そっと空を見上げてください」
「どうしてそんな必要がある。あの熱く下品な太陽の光など見たくもない」
すると、ハトは強い口調で
「お願いです。ほんのちょっとでいいから、見上げて下さい」
と頼んだ。
ハトの気迫におされ、コーモリは何も言わずうなずいた。
外は暑かった。
ジリジリと身を焦がすような光が照っていた。
コーモリは戸惑った。
いっそ、観るのをやめてしまおうとも思った。
けれど、一目、たった一目でいいから見たかった。
いや、見なければいけない気がした。
怖かった。
死んでしまいそうなほど怖かった。
だが、彼の帝王としてのプライドはやめることを許さなかった。
自分に恐怖するものがあってはならない。
体を思いきり後ろにそらすと、その勢いで飛び出した。
翼に渾身の力を込めて飛んだ。
そして、彼が闇夜の中を縦横無尽に飛び回る空を・・・見上げた。
そこには何もなかった。
光り輝く月も星もなかった。
あるのは、ただ一面の青だった。
コーモリは見とれた。
自分の目が長い時間、光に耐えることができないことも忘れて。
その時だった。
一面の青にまっすぐな白い線が現れた。
その線は自由奔放に青の中に模様を描いていった。
白線のダンスは、ハトの飛翔だった。
コーモリは見とれていた。
ハトがコーモリのもとに来た時、彼は完全に視力を失っていた。
後悔はなかった。
幸福だった。
出会ったあの時から、二人にはこうなることがわかっていたのかもしれない。
その時から、真っ青な青空には、白と黒の二色の線が、よりそうように引かれた。
完
|