満月



 父の会社が倒産。

 この事実は今でも実感がなかった。

 父が家にいることは、ほとんどない。

 たまに顔を合わせても特に話もしない。

 子どもの時から優しい言葉をかけてもらったこともない。

 遊びに連れて行ってもらったこともない。

 父がどんな仕事をしているかさえ、詳しくは知らない。

 健史と父の間には何もなかった。

 喋りもせず、それなのに威圧感だけはある存在。

 それが父の印象だった。

 だから倒産したということも人事にしか思うことができなかった。

 しかし、それどころではない。

 想像していた授業が浮かんでくる。

 一見奇抜に見えるアプローチ。

 そのすべてが動物の真理につながる話。

 一言も聞き漏らさないように必死にノートをとる自分の姿。

 浮かんでは消え、消えては浮かんでいった。

 田久保先生のいる学校へ行けない。

 今の健史には考えられないことだった。

 父と母への怒りの気持ちが膨れ上がる。

 子どもに教育を受けさせるのは親の義務じゃないか。

 そんなこともできないなんて、あの人たちは親失格だ。

 悔しさで涙が止まらない。

 偉そうにしていた父も、結局はこの様だ。

 母も泣くだけのただの人。

 もう、ぼくの夢はかなわないのだろう。

 しょせん人間なんてこんなものなんだろう。

 こんなことなら希望なんて初めから持たなければいい。

 そう、半年前にもどればいい。

 何事もほどほどに生きる。

 そうすれば苦しむこともない。

 怒りは不思議とおさまっていた。

 空っぽの気持ちだけが健史の中にあった。




 
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