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母はもう奥の部屋で寝ていた。
さっきの光景が健史の頭から離れない。
ひざをつく父など想像もできなかった。
男はプライドを捨てたらおしまいだ。
二言目にはそう言っていた人だ。
その父が人前で土下座をした。
父の自尊心はなくなってしまったのだろうか。
そんなはずはないと思いたい。
鍵の開く音がした。
「まだ起きてるのか。早く寝ろ」
健史は返事もできない。
何を言えばいいのかわからなかった。
「自分の行きたい高校に行け」
折り目が消えてしまったズボンを脱ぎながら父が言った。
それだけ言うと奥の部屋に入っていった。
何ヶ月ぶりかで田久保先生の本を手に取る。
本はほこりで汚れていた。
一節が目に付く。
『野生動物の親は子どもを守るためにオトリになることが多々あります。本能で親は子を守るのです』
健史は思う。
リングも、父も母も必死に生きている。
自分だけが生きていなかった。
田久保先生の本をしまう。
そして、参考書を手に取った。
真っ黒な空に今日も明るい月が光っていた。
完
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