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私は黒い手帳の山をそのままにし、そこを去る。
無性に祖母の顔が見たくなった。
親戚の集まっている部屋に行く。
酒の匂いと人の声に溢れている。
私は祖母に向かってまっすぐに進んでいった。
祖母は優しく微笑んでいる。
顔いっぱいにしわをよせ、小さな体を少し丸めて、にっこりと笑った。
「どうしたの、賢一くん」
いつ聞いても祖母の声は温かい。
何が彼女をここまで温和にしているのだろう。
まさか祖母は押さえつけられことで、自分の意志をなくしてしまったのか。
私の脳裏にもやもやと言葉が浮かぶ。
あきらめ
私はその言葉を頭から振り払う。
あまりに悲しすぎる。
もし、私の想像が真実ならば、祖母の一生はなんだったのか。
祖母は祖父に仕えるためだけに生まれてきたことになってしまう。
私は彼女に聞くことを決意した。
「賢一くん結婚はまだなの」
黙っていた私は祖母が話しかけられた。
「こんな生活してたら、結婚なんてできないよ」
「そう・・・」
祖母がさびしそうにうつむいた。
「おばあちゃん、あとは、賢一くんの子どもを見るのだけが楽しみなんだけどね」
胸が痛む。
小さな頃から可愛がってくれた祖母の願いをできることならかなえてあげたい。
けれど、定職にもつかず、売れない小説を書いているような、今の状況ではそれは難しいことだ。
「おばあちゃん。ごめん」
やっとのことでこれだけ言った。
「そんな顔しなさんな。そのうちいいお嫁さんがみつかるわよ」
笑いながら祖母が言う。
「そうだといいけど」
私も精一杯の笑みで答えた。
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