祖父の手帳



 祖母の笑みが物語るもの。

 彼女は「女」の人生を捨てたこと。

 「母」として、そして「祖母」としての人生。

 彼女にとっての幸福とは家族が幸福になることなのか。

 「おばあちゃんの幸福って何」

 私は問いかける。

 「そうだね、みんなが元気でいてくれるかねえ」

 想像どおりの言葉が返ってくる。

 やはり、彼女は女であることを捨てたのだ。

 祖父への怒りが湧きあがった。

 「おばあちゃんの若い頃ってどんなだった」

 一つの願いを込めた言葉だった。

 「映画が好きだったねえ。それも洋画ばっかり観てたよ」

 最悪だ。

 頑固で横暴な祖父と夢見がちな祖母。

 祖母の悲しみは計り知れない。

 せめて二人で観に行ってくれていれば、救われる。

 「おじいちゃんとは、観に行ったの」

 祖母は笑って答えた。

 「あるわけないでしょ。あの人は、ロマンチックなものなんて大嫌いだったもの」

 次の言葉を継げずにいると、祖母が続けた。

 「でもね、一度だけこんなことがあったわ」


 
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