祖父の手帳



 「どんなことがあったの」

 「結婚したばかりの頃にね、まだ十九かそこらの頃よ。おじいちゃん、若い頃素敵だったの。

  背もスラッと高くてね。ギターでも弾きそうだったんだよ。

  それが・・・あんたも知ってるだろうけど、雰囲気も何もあったものじゃないでしょ」

 私はうなづく。

 祖母は嬉しそうに話を続ける。

 「私も若かったからね。一緒に映画を観に行こうってダダをこねたのよ」

 「それでどうなったの」

 「どうなったと思う?」

 「怒鳴りつけられた」

 「おしいねえ。怒鳴りつけられて、その後にバッチーン」

 祖母は楽しそうに小さな手で叩く真似をした。

 「何それ。なんで、ぶたれなくちゃいけないの」

 口調がきつくなる。

 「男が女と映画なんか観れるか。毛唐の映画なんか、わしは観たくもない。

  男に要求するなんて生意気だって」

 そういうと、祖母はなつかしそうに目を細めた。

 「酷い話だね」

 私は腹が立って仕方がない。

 やはり祖父は粗野な暴君でしかなかった。

 「すぐに手を上げる人だったから。でもね・・・」

 「でも、何」

 祖母はおかしそうにクスクス笑っている。

 「どうしたの、おばあちゃん」

 「あんまり悔しかったから言ってやったの。

  『物語の一つも話せないような人にはついていけません』ってね」

 「そしたら、おじいちゃんなんて言ったの」

 「作り話なんか糞の役にも立たん」

 祖母は祖父の口真似をした。

 「それで、また、たたかれちゃった」

 なぜか、祖母は嬉しそうだ。

 「そんなこと言ったら、僕なんて糞以下だね」

 祖母は笑い、そして言った。

 「でもね、私知ってるの。あの人が、そのあと一生懸命隠れて本を読んでたこと」



 
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